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白川郷、五箇所の合唱造り集落

 茅葺きの合掌造りの家々は、深い山岳地帯の気候風土に最も適した建物で、「極めて論理的・合理的構造」。
 柱と柱は、ネソという粘りけのある灌木とわら縄で絞められていて、釘やカスガイは使われていない。江戸時代から続く相互扶助の習慣が今も残り、歴史の中に生きていると言える。
 世界文化遺産への登録は、平成7年(1995年)。

世界遺産としての価値
 日本では、民衆の住居である民家とその附属屋も、極めて限られた例外を除き、ほとんど全てが木造でつくられていた。民家は主に都市の商家と農村や漁村の住居に分類されるが、今回、登録された遺産は、農村集落とその住居群である。日本の農村の住居は、平入り、平屋建、真壁の土壁、茅葺き、寄棟屋根が主流である。しかし、妻入り、大壁、板壁、板葺き、入母屋または切妻屋根の民家もあり、これらの組み合わせによって、日本の各地に地方色豊かな民家建築が生まれた。これらの多様でそれぞれに完成度が高い民家建築は、日本が普遍的価値を持つ世界の遺産として提示できるものの1つである。  ところで、日本の農村の住居の形態は多様であるが、全体として見た場合、あるイメージのなかに集約される。すなわち、規模はあまり大きくなく、棟の高さも低く、屋根も傾斜がそれほど急ではなく(ほとんどの場合、勾配は45度以下)、地に伏せるような形で、自然に対峙せず、自然に融合するような姿である。これに対して、世界遺産である白川郷と五箇山地方の合掌造り家屋は、日本のどの地方にも見られない極めて特異な形態であり、また、日本で最も発達した合理的な民家の1つの形態であるといえる。

(1)他の地方の農家に比べて規模が大きく、屋根は勾配が60度近くもある急傾斜の茅葺きの切妻屋根であり、自然に対抗するようなイメージの外観を呈する。

(2)日本の一般的な民家では、小屋内は全く利用しないか、あるいは利用したとしても藁や茅などの資材をストックするといった消極的な利用であるが、合掌造り家屋では、小屋内を2〜4層として、積極的に利用している。急勾配の屋根や叉首構造の採用も小屋内の空間を大きく取るためのものであり、また、切妻屋根としたこと養蚕の作業場や桑の葉の収納場所などとしても、妻に開口部を設けて小屋内に風と光を確保するためである。これらのことは日本中のでは極めて異例である。

(3)叉首構造で切妻とし、急勾配としたことからくる構造上の弱点を屋根野地面に筋違いを入れて野地を一体化することによって補強している。この工夫も、他の地域では決して見ることのない技術である。
保存修復の歴史
 宅地、水田、畑などの土地の利用形態、および道や水路の配置などの集落の基本的な構造は、江戸時代末期から太平洋戦争前(19世紀前期〜20世紀中期)の状況を残している。ただし、相倉および菅沼集落の水田の一部は、かつては桑畑であったところを、相倉では1950年に、菅沼では1945年に転作したものである。荻町では、1890年頃に集落の中央を貫いてつくられた道路が、集落に新しい要素をもたらしたが、この道路もすでに100年以上を経過していて、集落の歴史となっている。相倉にも、1958年に集落の中央を貫いて新しい道路がつくられている。
 伝統的な建造物である茅葺きの合掌造り家屋や、ハサ小屋、板倉などの附属屋は、1世紀前の数に比べ、荻町では80%、相倉では45%、菅沼では70%程度となっているが、その配置や形態は古い形をよく保存していて、近代以前の集落の姿を十分に窺うことができる。白川郷に23、また五箇山に70あったこのような合掌造り集落も、現在ではこの荻町、相倉、菅沼の3集落だけとなっている。1970年の相倉、菅沼の史跡指定による、また1976年の荻町への伝統的建造物群保存地区制度導入による保存開始以降の3集落の変貌はほとんど見られず、制度は有効に機能している。
 どの相互扶助の慣習も現在に伝承されていて、冠婚葬祭や茅葺き屋根の葺替え時などに有効に働いている。また、集落内の各家や資料館には古い生活用具や生産用具などの民俗文化財も豊富に保存されていて、昔の生活を知ることができる。このように、3集落では歴史的な集落景観や伝統的建造物群だけでなく、伝統的な社会制度や生活習慣、民俗資料がよく伝承されていて、総合的に保存されている歴史的な集落として貴重な存在である。
 保存条例および保存計画に基づく保存地区の管理は、それぞれの村の教育委員会が行っている。建物や耕作地、樹木等の日常の維持管理は各所有者の責任となっているが、水路や道などの共同利用の施設の維持管理や地区内の火災予防の日常の活動などは、3地区とも近隣の伝統的な自治組織である「組」の共同作業または当番制で実施されている。
 荻町集落では茅葺き屋根の葺替えは「組」を単位として行われる「ユイ」で行われているほか、「白川郷荻町集落の自然環境を守る会」(歴史的集落景観の保存を目的とする住民全員で構成される組織)において、保存に関して生じる諸種の問題を議論し解決を図っている。また、相倉と菅沼集落の「ユイ」による茅葺き作業は、平村と上平村の森林所有者による近代的な互助組織として結成された五箇山森林組合(相倉・菅沼集落の世帯主のほぼ全員が会員となっている)の活動として引き継がれているほか、それぞれの地区住民によって相倉史跡保存顕彰会および越中五箇山菅沼集落保存顕彰会が組織され、集落の合掌造り家屋と環境の保存、民俗資料の収集と展示などを目的とした活動が行われている。

※世界遺産一覧表記載推薦書より抜粋
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