世界遺産としての価値
日本では、民衆の住居である民家とその附属屋も、極めて限られた例外を除き、ほとんど全てが木造でつくられていた。民家は主に都市の商家と農村や漁村の住居に分類されるが、今回、登録された遺産は、農村集落とその住居群である。日本の農村の住居は、平入り、平屋建、真壁の土壁、茅葺き、寄棟屋根が主流である。しかし、妻入り、大壁、板壁、板葺き、入母屋または切妻屋根の民家もあり、これらの組み合わせによって、日本の各地に地方色豊かな民家建築が生まれた。これらの多様でそれぞれに完成度が高い民家建築は、日本が普遍的価値を持つ世界の遺産として提示できるものの1つである。 ところで、日本の農村の住居の形態は多様であるが、全体として見た場合、あるイメージのなかに集約される。すなわち、規模はあまり大きくなく、棟の高さも低く、屋根も傾斜がそれほど急ではなく(ほとんどの場合、勾配は45度以下)、地に伏せるような形で、自然に対峙せず、自然に融合するような姿である。これに対して、世界遺産である白川郷と五箇山地方の合掌造り家屋は、日本のどの地方にも見られない極めて特異な形態であり、また、日本で最も発達した合理的な民家の1つの形態であるといえる。
(1)他の地方の農家に比べて規模が大きく、屋根は勾配が60度近くもある急傾斜の茅葺きの切妻屋根であり、自然に対抗するようなイメージの外観を呈する。
(2)日本の一般的な民家では、小屋内は全く利用しないか、あるいは利用したとしても藁や茅などの資材をストックするといった消極的な利用であるが、合掌造り家屋では、小屋内を2〜4層として、積極的に利用している。急勾配の屋根や叉首構造の採用も小屋内の空間を大きく取るためのものであり、また、切妻屋根としたこと養蚕の作業場や桑の葉の収納場所などとしても、妻に開口部を設けて小屋内に風と光を確保するためである。これらのことは日本中のでは極めて異例である。
(3)叉首構造で切妻とし、急勾配としたことからくる構造上の弱点を屋根野地面に筋違いを入れて野地を一体化することによって補強している。この工夫も、他の地域では決して見ることのない技術である。
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